東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12100号 判決 1969年5月12日
原告
羽部光治
代理人
鈴木孝雄
被告
木部喜章
ほか一名
代理人
風間武雄
ほか一名
主文
被告らは連帯して原告に対し金二二〇一万七六七五円および内金五九八万六六〇〇円に対する昭和四三年一一月二七日以降、内金二四万一〇一七円に対する同年一二月二日以降、内金二四万一〇一七円に対する昭和四四年一月二日以降、内金二四万一〇一七円に対する同年二月二日以降、内金一三五六万七〇〇万七〇〇七円に対する同年三月二日以降、各支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告らの、各負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。
事実
第一 請求の趣旨
一、被告らは連帯して原告に対し二六四三万四二二八円およびこれに対する昭和四三年一一月二七日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二 請求の趣旨に対する答弁
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。
第三 請求の原因
一、(事故の発生)
原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。
(一) 発生時 昭和四二年一〇月二日午前八時三〇分頃
(二) 発生地 東京都足立区北鹿浜町二七一九番地先路上
(二) 被告車 自家用普通貨物自動車(埼四む五七二五号)
運転者 被告 宮倉
(四) 原告車 自家用軽四輪貨物自動車(六足立き二六八五号)
運転者 原告
被害者 原告
(五) 態様 停車中の原告車に被告車が追突
(六) 被害者原告は頭部および頸部挫傷の傷害を受け、事故当日から一五八日入院し、現在も通院治療を受けている。
(七) また、その後遺症は鞭打ち症候群、頭蓋骨陥没骨折後遺症、脳挫傷後遺症で、治癒の見込がなく、現に頭痛、頸筋痛、聴力障害となつている。
二、(責任原因)
被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。
(一) 被告木部は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。
(二) 被告宮倉は、事故発生につき、前方注視義務を怠つた過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。
三、(損害)
(一) 治療費
原告は本件事故の日から、昭和四三年九月二一日までに、本件事故による傷害の治療費として一〇四万三三九二円の債務を負担し、更に、その後、昭和四四年三月二八日までに七万八四九七円の治療費を支払い、計一一二万一八八九円の損害を受けた。
(二) 休業損害
原告は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ五八六万八〇〇〇円を下らない損害を蒙つた。
(休業期間)
昭和四年三月二日まで一年六月。
(事故時の月収)三二万六〇〇〇円。
原告は、昭和四二年四月一日より、事故の日まで東京陸運局長の認証を受けて小型自動車分解整備事業を営み、右期間の被課税所得は一九五万七一二五円である。したがつて一カ月の収入は三二万六〇〇〇円を下らない。
(三) 逸失利益
原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。その額は二一四七万八八三六円と算定される。
(訴提起時)四八歳
(稼働可能年数)一五年
(労働能力低下の存すべき期間)一五年
(収益)年収三九一万二〇〇〇円を下らない。
(労働能力喪失率)二分の一
(右喪失率による毎年の損失額)一九五万六〇〇〇円
(年五分の中間利息控際)ホフマン複式
(年別)計算による。
(四) 営業閉鎖による損害
原告は本件事故の日から就労不能となり、その営業ができなくなつたため、その従業員訴外木村、同小林二夫に対し、それぞれ一ケ月分の給料三万八〇〇〇円と退職金一一万四〇〇〇円を支払つて解雇し、同額の損害を蒙つた。
(五) 慰藉料
原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み五二五万円が相当である。
(六) 弁護士費用
以上により、原告は三四〇二万二七二五円を被告らに対し請求しうるものであるであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、原告は報酬として回収額(勝訴額)の一割五分を支払うことを約した。
四、(結論)
よつて、被告らに対し、原告は前項損害額の内金として二六四三万四二二八円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年一一二七日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四 被告らの事実主張
一、(請求原因に対する認否)
第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)(七)は知らない。
第二項は認める。
第三項は争う。
二、(抗弁)
被告らは本件事故発生後、賠償の内金として次のとおり支払いをしたので、右額は控除さるべきである。
(1) 自賠責保険により四六万二五一〇円
(2) 原被告間の仮支払仮処分事件の内金として四一万円
第五 抗弁事実に対する原告の認否
抗弁事実は認める。
第六 証拠関係<略>
理由
一、(事故の発生)
請求原因第一項(一)ないし(五)の事実は当事者間に争がない。
<証拠>によれば、請求原因第一項(六)(七)の事実および後遺症の程度は、自賠法施行令別表等級の七級四号に該当することが認められる。
二、(責任原因)
請求原因第二項の事実は当事者間に争がない。
三、(損害)
(一) 治療費 一一二万一八八九円
<証拠>によれば、請求原因第三項(一)の事実が認められる。
(二) 休業損害 四三三万八三〇六円
<証拠>によれば、原告は昭和四二年三月二日東京陸運局長より自動車分解整備事業の認証を受け、同年一〇月二日本件事故に遭遇するまでの七ケ月間に、一六八万七一二五円の収益をあげたことが認められる。(<証拠>によれば、所得金額は一九五万七一二五円となつているが、右金額は収入金額二六〇万九五〇〇円から必要経費六五万二三七五円を控除した金額であるところ、収入金額算定の基礎である甲第六号証の二六(羽部自動車販売実績書)の合計金額七九万一〇〇〇円は計算の誤り、正しくは五二万一〇〇〇円とあるべきものである。したがつて、他に特段の事情の立証がないので、収入金額および所得金額はその差額二七万円だけ減少すべきものと解せられ、所得金額を一九五万七一二五円から二七万円を控除した一六八万七一二五円と認定した。)したがつて、一ケ月の所得金額は、右一六八万七一二五円を七で除した二四万一〇一七円である。
ところで、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故による負傷のため、事故後一年六月を経た昭和四四年三月一日当時も休業していたことが認められる。
したがつて、右一年六ケ月間の原告の休業損害は、四三三万八三〇六円となる。
(三) 逸失利益 一三三二万五九九〇円
<証拠>によれば、原告は、休業損害算定の最終日である昭和四四年三月一日当時、満四八歳であることが認められ、原告の職種に鑑みれば原告の稼働可能年数は一二年を以て相当と認める。そして、原告の後遺症は前記のとおり自賠法施行令別表等級表の七級に該当するので、原告主張の労働能力喪失率五〇パーセントは、相当と認められる。原告の事故当時の月収は前記のとおり二四万一〇一七円と認められるので、毎年の損失額は、一四四万六一〇二円となり、一二年間の損失額から年五分の中間利息をホフマン式計算により年毎に控除して、昭和四四年三月二日における現在値を求めると、一三三二万五九九〇円となる。
(四) 営業閉鎖による損害 三〇万四〇〇〇円
<証拠>によれば、請求原因第三項(四)の事実が認られる。
(五) 慰藉料 二三〇万円
原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、傷害の部位程度、原告の経営に与えた打撃その他諸般の事情に鑑み二三〇万円が相当である。
(六) 損害の填補
原告が既に計八七万二五一〇円の弁済を受けていることは当事者間に争がない。
(七) 弁護士費用
以上により、原告は(一)ないし(五)の合計二一三九万〇一八五円から(六)の八七万二五一〇円を控除した二〇五一万七六七五円を被告らに請求しうるものであるところ、<証拠>および弁論の全趣旨によれば、被告らは任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立を委任し、執酬として原告は回収額の一割五分を支払うことを約したことが認められる。しかしながら、本件訴訟の訴額、認容額、訴訟の経緯に鑑みれば、被告らに賠償を求めうべき金額は一五〇万円を以て相当と認める。
四(結論)
よつて、原告の被告らに対する本訴請求のうち、二二〇一万七六七五円および内金五九八万六六〇〇円(前項(一)(四)(五)の全額と(二)の内昭和四三年一〇月分までの休業損害三一三万三二二一円との合計六八五万九一一〇円から(六)の八七万二五一〇円を控除)に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四三年一一月二七日から、内金二四万一〇一七円(休業損害のうち同年一一月分厳密には一一月二日から一二月一日までの分―以下同様)に対する同年一二月二日から、内金二四万一〇一七円(休業損害のうち同年一二月分)に対する昭和四四年一月二日から、内金二四万一〇一七円(休業損害同年一月分)に対する同年二月二日から、内金一三五六万七〇〇七円(休業損害のうち同年二月分と前項(三)の逸失利益)に対する昭和四四年三月二日から、各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。(篠田省二)